手を抜くことを教える大学、行く意味あるの?

 大学が「専門学校」化している、つまり、職業訓練の場としてしか機能していないのではないか、という意見を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。しかし、その考え方は、少なくとも有名大学、あるいは、有名な学部や学科においては必ずしもそうではないということが言えると思います。というのも、そういった場においては、大学生という身分を活かした、大学生にしかできないような「職業訓練」が行われているからです。つまり、将来就きうる職業に対する素質を大学生のうちに身につけるということをやっているのです。ここでは、新卒社員に求められる即戦力が仮にも伴っていないとしても、ネームバリューや人脈を活かして就職のきっかけを作り、育てると伸びる(=素質がある)人材であることを強みとすることができます。

 しかし、あくまでもそれは建前上であって、有名大学であるがゆえに学生の素質を育てることを怠る場合もあるとともに、有名大学ではないけれども学生の素質を育てることのできる大学も多く存在します。この記事のタイトルにある、「手を抜くことを教える大学」は、主に前者の、「有名大学なのに行く意味が無い大学」を指していると考えていただければと思います。

素質を磨く「職業訓練」とは?

 具体的に、大学生にしかできない、「素質を身につける」とは、どうすることでしょうか。それは、ある特定の分野についての包括的な知識を身につけるということにあたります。つまり、大学の教授がする講義によって、客観的にその分野を見渡す視点を獲得したのであれば、一応は大学に行って講義を聴いた意味はあります。その講義を聴く意味があるのかというのは、どうしても教授の質、すなわち実績に頼らざるを得ない部分がある、というのはこのような理由からです。しかし、講義を聴いてレポートにおいて最低限の理解を確認する、というだけでは素質の獲得にはつながりません。講義の内容とリンクした実践的な科目の受講、あるいは、教授からの適切なフィードバックを得るために教授との交流を積極的に行っていく、といった行動が必要になってきます。これには有名大学であろうと無かろうと関係ありません。逆に言えば、有名大学ではないことの強みというのは、教授と学生との距離が近いため、効果的にフィードバックが得られるなどのメリットを活かせるかどうかにかかっていると言えます。

有名大学は、むしろ手抜きを推奨しがち

 ここからは、私が通う、大学の建築学科における体験談をもとに、「手抜き推奨」の現実を語っていきたいと思います。最初に断っておくと、日本において設置されている建築「学科」は数少なく、その全てに伝統があるので、「建築学科」という時点でおそらく有名です。建築学科においては、設計課題といって、コンセプトのある建築を設計するという課題が必ず課せられます。私自身も設計した上で、優秀作品の講評を聴いて自らの参考にすることで、設計に対する「素質」を身につけてもらうということを名目でやっているかと思います。

 しかし、講師陣の中でも、役に立つ講評をしている講師は少ないです。「地形を考慮しているから良い」、「動線を考慮しているから良い」、などが役に立たない講評の典型ですが、これらを考慮している作品なんて、そこら中にあります。正確には、「地形を考慮している『ことが分かりやすくプレゼンされていた』から良い」とか、「地形を考慮している『ことがよく表れた構造だった』から良い」になるべきであります。逆に言うと、地形を考慮していても、必然性が見えていない作品や、建物自体の設計に手を抜いている作品は、優秀作品の中にも、一定の割合でありました。おそらくその割合というのは、建築学科の学生全体に対する、手を抜いた人の割合に匹敵するとさえ思っています。それでは、優秀作品とそれ以外の作品との違いは何か、と言えば、「素質」です。つまり、講評では「素質のある作品」を紹介しているだけであり、それを聴いたからと言って自らの素質を磨くことには繋がりません。そればかりか、私は手抜きをしても良いという感情にさえなってしまいそうになりました。もちろん、本当に手抜きをしてはいけません。一つひとつの課題に真摯に取り組み、自分の納得するものを作り上げることの積み重ねが、素質を磨くということだと思っています。優秀作品の中にも、「あなたはその作品で自分に納得していますか?」と問いたいものが半分くらいはありました。

まとめ

 一部の学生が手を抜いてしまうのは、それでも卒業、就職できてしまうからなんですよね。有名大学になればなるほどそういった手抜きを学生に推奨する傾向が高くなっているように思えます。それは間違いなく、有名であるゆえのおごりでしょう。大学生に対する「職業訓練」において、手を抜くことを教えるのは良くないことだと私は考えます。

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