【8日目】1ヶ月で学ぶ高校地学【熱と対流、日本の気象】

地球全体の熱収支

大気中で起こる対流は、熱の移動によって説明ができる。それでは、その原動力となる熱はどこから生じているかと言うと、太陽および地球の放射熱および、潜熱(水蒸気の凝結熱)である。太陽からの熱が大気に入射すると、その一部は反射したり、大気に吸収されるが、半分は地表面が吸収する。そして、吸収した熱のほとんどはまず地表面付近の空気に伝わり、それが対流により、潜熱をもつ水蒸気とともに上空に輸送される。残りの大部分は宇宙空間に放出される。晴れている日に、いわゆる「放射冷却」が起こるのはこのためである。このように、熱の伝わり方の3種類(伝導対流放射)の中で、大気を暖める役割を担っているのは主に、地表面付近における伝導と、地表と上空の間の対流である。放射は主に宇宙空間と地表面の間に起こるものであるから、間にある大気に直接伝わる熱は少ないのだが、まずは地表面を暖める、という形で間接的に関わっている、ということだ。

・太陽放射と地球放射

太陽や地球も含め、すべての物体は、その表面温度に応じた量のエネルギーを電磁波として放射している。6000Kの太陽表面からの放射は、波長0.5μm付近の可視光線が最も多く、太陽放射と呼ばれる。太陽のスペクトルは可視光域全体に渡っているため、白色光と一般的に言われる。
一方で、300K(≒27℃)の地球表面からの放射は波長10μm付近の赤外線が最も多く、地球放射(赤外放射)と呼ばれる。地表からこの赤外放射によって熱エネルギーを宇宙空間に放出することを放射冷却という。すべての物体は常に電磁波を放射して冷却しており、電磁波は熱を伝える担い手となっている。
太陽放射に含まれる紫外線(波長が比較的短い)のほとんどは対流圏に到達する前にオゾンや酸素に吸収される。地表からの赤外線は、対流圏の地表付近に多く存在する水蒸気や二酸化炭素に吸収されるが、「大気の窓」とよばれる、大気に吸収されずに直接宇宙空間に出ていく赤外線の波長領域が10μm付近に存在する。
太陽定数
大気の上端で太陽光線に垂直な1㎡の面が1秒間に受ける太陽放射エネルギー(1.36W/㎡)を太陽定数という。これをもとに地球が1秒間に受け取る太陽放射エネルギーの総量は、太陽に面した地球の円断面が受け取る太陽放射に等しいので、1.36(W/㎡)×πR^2 ≒ 1.8×10の17乗(W/㎡) となる。これを地球の表面積4πR^2で割ると、単位面積当たり1秒あたり受け取る放射エネルギーの(夜の部分も極付近も含めた)平均、0.39W/㎡が求められる。
宇宙空間、大気圏、地表のそれぞれの領域について、入射するエネルギーと放出するエネルギー量は等しく、(地球全体で見れば)釣り合っている。
温室効果:大気中に含まれる温室効果ガスが地表からの赤外線を吸収し、一部を地表に再放射して地表を暖める現象。これにより実際の平均地表面温度(14℃)は、太陽定数から計算される地表面温度(−19℃)より高い。温室効果の寄与率は、水蒸気:48%、二酸化炭素:21%、雲:19%、オゾン:6%である。
・逆転層
夜間に晴れて風がないときは、太陽がのぼる直前に地面付近が最も冷える。冷えた空気は重いため地面付近にたまり、上空ほど暖かくなる。このような温度構造を逆転層という。
例:筑波山の中腹部は冬の朝に気温が引くならないため、みかん畑が存在する。

・低緯度→高緯度の熱循環

地球全体では太陽放射の地表面における吸収と、地表からの赤外放射および伝導・対流による熱が釣り合っているが、実際は低緯度の方が太陽放射による熱の量が多いので、対流が低緯度→高緯度に起こることで、赤外放射は太陽放射と比べて、低緯度では小さく、高緯度で大きくなるため比較的均一になる。

・大気の大循環

中緯度帯では太陽放射と赤外放射が釣り合っている。これに対応して、上空では蛇行しながら地球を一周する偏西風(亜熱帯ジェット気流、亜寒帯ジェット気流)が吹いている。この部分の地表付近では、移動性高気圧、温帯低気圧などの渦が生じて、中緯度域から高緯度域への熱輸送を担う。
極付近では極循環による極偏東風(極→亜寒帯低圧帯)、赤道付近ではハドレー循環による貿易風(亜熱帯高圧帯→赤道収束帯)が吹く。

・風にはたらく力

①気圧傾度力
水平方向に気圧差があると、高圧部から低圧部に向かって空気が流れようとする。これにより、等圧線に対して直角方向に気圧傾度力が働き、等圧線の間隔が狭いほどこの力は大きく、強い風が吹く。
②コリオリ力
動く物体は、北半球では右に、南半球では左にそれる。これを成り立たせている回転系における見かけの力をコリオリ力という。赤道上ではコリオリ力は0になり、高緯度ほど大きくなる。

・気圧と風

地表面との摩擦の影響が及ばない上空では、風にはたらく気圧傾度力とコリオリの力がつり合うように、等圧線に平行かつ高圧側が右手(北半球)になるように風が吹く。これを地衡風(ちこうふう)という。
等圧線が円形または湾曲した場所では、気圧傾度力とコリオリ力のほかに遠心力もはたらく。これを傾度風という。
低圧部では遠心力によって気圧傾度力が弱まる(等圧線が広がることで勾配が緩くなるイメージ)ため、傾度風は弱くなる。逆に高圧部では傾度風は強くなる。

・地表付近の風

地表付近では地表面との摩擦の影響を受ける。摩擦力は、低圧部ほど大きく高圧部ほど小さいので、風は高圧部から低圧部に向かって等圧線を斜めに横切るように吹く。そのため、低気圧の部分では風が集まることで上昇気流が生まれる。

日本の気象

・前線

寒冷前線
寒気が暖気を押すことで生じる。暖気は強制的に押し上げられて強い上昇流となるため、積乱雲が生じて強い雨や雷雨となる。
温暖前線
暖気が寒気を押すことで生じる。湿った暖気が寒気の上をはい上がりながらゆっくりと押し進むので、寒気側に乱層雲、高層雲、巻層雲、巻雲の順に生じ、前線付近では乱層雲による弱い雨が降る。
閉塞前線
進みの速い寒冷前線が、温暖前線に追いついて重なった前線。より冷たい寒気の方に、もう一方の寒気が乗り上げ、乱層雲により弱い雨を降らす。
停滞前線
暖気と寒気の勢力が拮抗していて、衝突面がほぼ同じ位置にとどまる。梅雨前線や秋雨前線など。
温帯低気圧
地表気温の南北差の大きい地域で低気圧が発達すると、東側では②温暖前線、西側では①寒冷前線を形成する。しだいに①が②に追いつき、最盛期には③が形成される。

・上空の空気と地表の空気の関係

偏西風波動
偏西風は南北に蛇行しながら地球を一周している。南側に凸な部分の内側(北側)には寒気が存在するため、「気圧の谷」となる。温帯低気圧はその少し東側に発達する。
偏西風が南北に大きく蛇行した状態が続くと、地上の高気圧や低気圧が停滞し、異常気象が引き起こされる。ジェット気流が南に大きく蛇行すると、その部分の気圧の谷に北風が吹き込むことで、強い寒気が持続的にもたらされる。
・ジェット気流の季節変化
ジェット気流は、高層天気図における地衡風を考えることで向きや強さを把握できる。
①春や秋:亜寒帯ジェット気流が日本上空を流れ、地表では大陸から移動性高気圧、温帯低気圧が頻繁に移動してくる。
②梅雨:亜熱帯ジェット気流が日本南部の上空を流れ、南は温暖、北は寒冷の梅雨前線が形成される。
③夏:亜熱帯ジェット気流が北海道上空まで北上して、1年のうちで最も弱まる。
④冬:亜寒帯ジェット気流と亜熱帯ジェット気流が日本付近で合流し、1年のうちで最も強いジェット気流が形成される。
・亜熱帯上空のジェット気流は比較的まっすぐ流れる一方、中緯度上空のジェット気流は、南北の気温差が大きいため蛇行する。また、気温差によって上空ほど等圧面高度の差が大きくなることで気圧傾度力が大きくなるので、地衡風は強くなる。この高度による地衡風の風速の差を温度風という。

・日本の気団

気温や湿度が比較的一様な空気の塊で水平方向に数百〜数千km程度の広がりを持つものを気団という。
長江気団:移動性高気圧に対応する。偏西風の影響で東進し、乾燥した晴天になる。
オホーツク海気団:日本の北方でジェット気流が北に蛇行すると、その部分に高気圧が形成され(ブロッキング高気圧)、それに対応して地表付近でオホーツク海高気圧が発達する。
冷涼・湿潤で、太平洋高気圧(温暖・湿潤な亜熱帯高圧帯)とぶつかって梅雨前線を作る。
夏に北日本や東日本の太平洋側に冷たい北東風をもたらすが、薄い気団なので奥羽山脈を越えられず、日本海側への影響は小さい。
小笠原気団:夏に太平洋高気圧から大陸上の低気圧に季節風が吹くことで、高温多湿の空気をもたらす。大陸の上空ではチベット高気圧が東に張り出すため、それが太平洋高気圧とつながったものを小笠原高気圧と呼ぶ。
シベリア気団:冬には大陸が放射冷却により冷却され、寒冷・乾燥なシベリア高気圧が発達し、日本の北東の海上に停滞したアリューシャン低気圧に向けて北西季節風をもたらす。この季節風は暖かく湿った対馬海流の影響で日本海側に雪をもたらす。

・低気圧

温帯低気圧の寿命は数日間、熱帯低気圧の寿命は一週間である。熱帯低気圧が台風レベルまで発達すると、より長くなることもある。
南岸低気圧:2月、3月頃にシベリア高気圧からの季節風が一時的に弱まり、東シナ海で温帯低気圧が発生すると、その北側では寒気を引き込んで、太平洋側でもまとまった雪が降りやすい。
春一番:大陸が暖まりシベリア高気圧が弱まると、低気圧が日本海を東進するので、南から暖気を引き込み、南風が吹く。
熱帯低気圧:水蒸気を大量に含む空気が上昇すると、潜熱(凝結熱)により暖められて上昇気流が強化される。さらにその上昇気流が水蒸気の供給を促すため、海上で発達しやすい。
赤道を挟んだ緯度10°までは、コリオリ力が小さいため風が収束できず、発達しにくい。
台風:北太平洋西部
ハリケーン:北太平洋東部、北大西洋
サイクロン:南太平洋とインド洋
に存在する、発達した熱帯低気圧である。
・台風の移動
台風とは、最大風速34ノット(約17m/s)に達した熱帯低気圧。春先は貿易風に流されて西に進みつつも北上し、フィリピン、台湾付近を通る。夏は、太平洋高気圧の縁を吹く地衡風に流されて日本に接近する。偏西風の影響で中緯度ほど移動速度は速くなる。

・日本の気象観測網

・ウィンドプロファイラ:電波が大気の流れにより散乱して戻ってくる反射波を利用して、高度12kmまでの上空の風向・風速を観測する。
・気象レーダー:電波が雨や雪に当たって戻ってくる反射波を解析して、半径数百km圏内の降水の分布や強さ、降水域内の風を観測する。
・アメダス:無人の地域気象観測システム。降水量は平均約17km間隔で観測している。降水のほかに、積雪などを観測する場所もある。
・ひまわり:東経140.7°、赤道上空約35800kmから雲を観測する静止衛星。可視光を観測すると、雲頂が映る。積乱雲や乱層雲などの厚い雲ほど太陽光を多く反射するため、より白くはっきり写る。
赤外線を観測すると、積乱雲だけでなく、巻雲、巻積雲、巻層雲などの上層雲のように、雲頂高度が高く、温度が低い雲ほど赤外放射が弱いため、その部分は白く表現される。

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