九州・山陰再訪記(山陰本線迂回貨物撮影)

旅行

 その日の朝は、とても静かな朝だった。昨夜の賑やかな難波は静まりかえり、道行く人には、急いでいる様子が感じられない。御堂筋線に乗ると、梅田方面ホームには、各ドアに一人並んでいるか、並んでいないか、という具合だった。新大阪に着くと、多くの人が乗車区間変更などでみどりの窓口に並んでいた。アナウンスでは、下りのぞみ9号を最後に、東海道新幹線は運転を見合わせると言っている。そう、台風21号が近畿地方を襲った2018年9月4日である。私はその前日、名古屋から紀伊半島を一周して難波で泊まることを決めた。当初の予定では、和歌山から徳島への南海フェリーの深夜便に乗船して、高知県を横断して、そこからさらに九州に渡る予定だった。しかし、JR四国は全線で運転見合わせを決定していたし、当然フェリーも欠航が決まっていたため、大阪まで行き、翌朝の新幹線での移動も見据えて、新大阪まで御堂筋線一本で行ける難波に泊まることを選択したのだった。

 そして無事、さくら指定席で新山口まで移動し、山陽本線の下関行に乗り継ぐことができた。九州に渡って、どこを観光しようかと考えたときに思い付いたのが、隈研吾設計の太宰府スタバだった。大宰府は以前修学旅行で訪れていたが、わざわざ見に行くほどまでに意匠の凝らされたスタバを見た覚えが無かったので、それを確かめたいという思いがあった。

天拝山・原田間

 鹿児島本線で普通列車とEF81貨物を撮影した後、西鉄の駅まで歩いた。鹿児島本線と西鉄は、福岡市南区から筑紫野市にかけての比較的長い距離において1kmほどの距離を保ちつつ並走している。西鉄二日市駅で太宰府線に乗り換えるのだが、観光客が非常に多かった。その多くは二人組か団体客だった。そういえば、修学旅行で来たときは、自分も団体客の一人だったなあ、と思いつつ、スターバックスの撮影を済ませて早々に引き揚げた。「ラーメン暖暮」というとんこつラーメン屋で少し遅めの昼食をとった。ここは修学旅行でも訪れたが、そのときの味が蘇ってきて安心した。

隈研吾による設計。

 その後、筑肥線で唐津へと行った。目当ては辰野金吾設計の「旧唐津銀行」であったが、そこら中にいる野良猫に目を奪われた。地元の方々にも可愛がられていた。

 小倉駅前のホテルに泊まり、翌日は山陰本線で長門市まで行った。そこから萩まで行く列車は午後まで無かったため、美祢線で厚狭まで戻るルートを必然的に通ることとなった。修学旅行で行った秋芳洞は、美祢市にある。鉄道旅である都合上、今回は行けなかったが、次回は、今回通れなかった萩を観光すると同時に、秋吉台、秋芳洞の再訪を叶えたいと思う。

山陰本線の車窓から。長門市付近と思われる

 宇部線を経由して、新山口まで戻ってきた。その後、益田行の列車まで何本か見送る必要があったが、昼食にしようと思い、湯田温泉の油そば屋に行くことにした。すると、「かめ福」という名前の旅館が見えてきた。修学旅行で湯田温泉周辺に泊まったということは覚えているのだが(当時は「駅メモ」という位置情報を使って最寄りの駅へのアクセスを競うゲームをしていた)、旅館の名前は思い出せなかった。 「かめ福」という響きに心当たりがあったため、何とか思い出すことができた。

 山口線を抜け、益田駅で山陰本線に乗り換える。明日の撮影場所である、道の駅「ゆうひパーク三隅」を車内から確認したところ、すでに三脚が何本も立っており、夕日と絡めて列車を撮影している人も数名見られた。明日も晴れるといいのだが…と思いつつ、予約したホテルのある江津に着いた。ここは三江線に乗ったとき以来だ。せっかくだから観光しようと思ったが、もう日の入りの時間だった。途中で見つけた工場の夜景を撮りたい、と思って江の川の対岸からバルブ撮影をした。この工場、修学旅行の写真にもしっかりと写っていた。まあ、あくまでも江の川をメインで撮ろうとしていたようだが。

 それでは、修学旅行でゆうひパーク三隅に立ち寄ったときに、「ここ、良い撮影地だな、でも本数がないからなかなか撮れなさそうだな」と思いつつ記念に撮影したアングルと、山陰貨物を撮影した、一段下の道路からのアングルを比較した画像を載せておこう。

2016年撮影
2018年撮影

 山陰本線迂回貨物は、上りしか撮れなかった。台風の影響で下りは運休だった。それにしてもここまで影響が長引くとは。帰りはサンライズ出雲、出雲市発車まで時間がだいぶあるので、出雲大社の観光をしようと思っていたが、山陰貨物には案外簡単に追いつけた。浜田駅での長時間停車中に追いついて、そこで快速アクアライナーに乗ることで、先回りできたのだった。どうせ曇りだから、と思って電化区間で撮ることを選択した。撮影地は、出雲市~直江間の斐伊川橋梁だった。通過まで1時間あったので、この旅はどんな意味があったのだろうか、と考えていた。
 自ら選んだわけでもなく、消去法で選んでいったら、偶然修学旅行のルートを踏襲する形になった。そして山陰貨物をここでも撮影した後は、出雲大社に行く。さて、ここでは何をお願いしよう。旅の安全祈願にしても、あとはサンライズ出雲に乗って帰るだけである。縁結び?そんなものは自分の考え方次第でどうにでもなる。修学旅行のときは何も願い事をしなかった。そういうことがカッコ悪いと思っていたのだ。しかし、願い事をしないと、それなりの結果になってしまう。その代償を今の自分が、「迷い」という形で背負っている。過去の自分を捨て去りたいが、それは今の自分の拠り所を無くすという意味でもある。そのために、まずは過去の自分と和解した上で、自分を見つめ直すことが必要だと結論付けた。
 出雲大社での願い事は、そうした過去の自分を赦そうとする姿勢を反映したものとした。あくまでも本質は修学旅行以来の自分についての報告である。余談ではあるが、二の鳥居は工事中で、くぐることができなかった。そういう意味でも、「今度はいい報告を持ってこいよ」とでも言われた気分である。

浜田駅
出雲市・直江間

 今回の旅行は、修学旅行で訪れた場所に再び訪れたことで、過去の自分に出会うことができたという点で今後の成長に繋がる旅だった、と総括したい。

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