旅の始まり
8月には「一週間北日本紀行」と題して、かつて訪れた場所を思い出しつつ、新たな旅の形を模索した。このとき、「鉄道の車内においてプライベートスペースをいかに確保するか」がテーマとなった。何度か同じ場所を鉄道で訪れていると、「この時間は混んでいる」とか、「この駅から混み始める」といったことが段々と分かってくる。こうした、ネット上には転がっていないような知識と経験を活かしてこそ、快適な旅行が楽しめるのではないか、と考えた。
今回は、そういった旅行に対する姿勢を見直すきっかけにしようと考えていた。というのも、一人旅というものは一般的に旅によって得られるとさせる人生経験を非常に得にくい形であるからだ。前回の「一週間北日本紀行」においては、ノートPCをリュックサックに入れることで、列車内の暇つぶしであったり、プログラミング学習による自分自身の成長があったものの、果たしてこれは旅に出てまでする必要があったのだろうか。
もちろん、自宅で学習するよりも、旅の途中での学習の方が学習効率の良さを感じられた。環境に慣れ過ぎてしまうと、どうしてもけじめをつけることができないのが私の性格である。しかし、ノートPCを持ち運ぶことによって一番困ったのが、その「重さ」であった。この影響で、旅の途中で筋肉痛を発症したりと、行動が何かと制限されたのだった。
そういえば、函館の夜景を見に行ったのも、函館のホテルに一旦チェックインして荷物を減らした後のことだった。もし函館以外の場所のホテルを予約していたら、わざわざ重い荷物を抱えて夜景の撮影には出向かなかっただろう。
そして、鉄道の中でのノートPCによる作業も、膝の上にリュックサックを置いてそれを机がわりにするため、意外と体の負担にもなっていた。以上のような「一週間北日本紀行」の反省点から、今回は鉄道車内での作業を原則行わないこととした。九州の鉄道に本格的に乗るのは今回が初めてということもあり、車窓も楽しめるだろうと思っていた。しかし、やはり旅の道中で暇になることもあろうかと、ノートPCを持参することには変わりがない。前回の荷物と比べて減ったのは、一眼レフカメラの充電器くらいだ。
この文章を書いている今日(2019年9月3日)は、たまたま延岡駅でコンセントのついた都会的な待合室があったため、そこで執筆している。しかも丁度、一週間の折り返し地点であるため、前半部分の旅を振り返っておくことにした。それでは、2019年8月31日からの一週間、西日本紀行の様子をお届けしたい。
東京から大阪へ。いつもの列車で
私は東京の西部に住んでいる。だから、いつも関西方面に向かうときは、4時33分武蔵小金井を発車する列車に乗り、まずは中央線で名古屋へと向かうのだ。名古屋には11時35分に着く。東海道線の始発に乗車する人は、青春18きっぷの時期には当然多くなるが、中央線の始発は乗れる人が限られてくるので、比較的少ない。とは言え、松本始発の313系2両編成の列車は、塩尻の時点で窓側の席が全て埋まるほどであるから、これに関してはJR東海の車両運用が絶妙であると言わざるを得ない。立つ人も1両につき5人程度はいるだろうか。
列車は10時14分になる頃に中津川駅に着いた。名古屋行の発車までは6分以上ある。この時間を利用して、金券ショップを訪れた。今回の旅行が始まる時点では、青春18きっぷは4回分しか残っていなかった。そのため、途中で2回か3回分を買っておかなければならなかった。
青春18きっぷ使用期限が残り10日であるためか、1回分が2枚しか残っていなかった。1枚4000円であるため、買うのを断念した。店員さんには、「2、3回分ありますか」とあらかじめ聞いていたため、店員さんも売るのを遠慮していた。中津川はだめだったが、大垣にも金券ショップがある。そこに賭けることにした。ちなみに、2回分または3回分が7000円以下で売られていたら買うつもりでいた。
すぐに中津川駅に戻り、改札のあるホームに停まっていた10時20分名古屋行に乗車した。中津川駅と大垣駅の金券ショップに寄ることを計画していたのは、うまく乗り継ぎ時間を利用して金券ショップに寄れることができたからだった。
名古屋駅では、11時45分発の新快速大垣行に乗ると、大垣駅で25分ほどの待ち時間ができる。それを利用して金券ショップを2軒比べることを計画していた。しかし、ここで食欲に負けて、きしめんを食べてしまった。新快速が2分遅れていなければ、乗れていなかっただろう。
大垣駅付近に2軒金券ショップがあるということだが、同じ系列の店舗だったため、どちらも同じ値段で、青春18きっぷのバラ売りがされていた。時間があったため、一応どちらも見て回ったが、やはり値段に変わりは無かった。ここで2回分を6000円で購入した。3回分は8400円だったため、手が出なかった。1回分減らす代わりに、1週間のうち特定の日の移動を抑える、もしくはバス移動にあてることができるように計画をしていたため、7000円以下で買えればどちらでも良かった。
大垣から米原まで行けば、あとは新快速に乗って大阪を目指すだけだ。1日目の目的地は泉大津の阪九フェリーターミナルである。
信太山駅には15時41分に着いた。そして、泉大津を阪九フェリーが出港するのは17時半である。もちろん歩けば間に合うのだが…。
そして、事を済ませた後、和泉府中駅前に停まっていたタクシーに乗せてもらった。16時半頃なので、まだ余裕がある。「泉大津のフェリーターミナルへ」と伝えると、高齢のドライバーはすぐに理解したようで、渋滞を避けて裏道を通るなどして、16時50分に目的地に着いた。2100円を払い、降りると、そこにフェリーは見当たらなかった。
そう、ここは「フェリーターミナル」ではなく、「フェニックス」というイベント会場だった。そういえば運転手は、今日は朝から「フェニックス」へのお客さんを多く乗せていると言っていた。てっきりフェニックスとは、フェリーターミナルがある地域を示しているのかと思っており、阪九フェリーの上り便のお迎えのためにタクシーを使う人がいるのかと思ったが、よく考えれば、朝に「フェニックス」に行く人が10人くらいいたのだから、フェリーターミナルだとすると辻褄が合わなくなる。どうして運転手に見せてもらったときに気づかなかった…。しかし、本当にフェニックスとかいう、フェリーターミナルとは全く違う場所に連れてこられるとは思わなかった。
ここから歩くと2㎞あり、明らかに間に合わない。藁にもすがる思いでタクシー会社に電話を掛けると、臨時のタクシー乗車場にタクシーが来るそうだ。教えてくださってありがとうございます。危うく素通りするところだった。
3分ほどでタクシーが来た。「阪九フェリーのフェリーターミナルにお願いします」、と伝えるとすぐに向かってくれた。17時半の便があることをこの運転手さんはご存知で、「東京から九州に向かうついでにフェニックスのイベントに参加した人」という設定で会話した。
1640円をドライバーに払い、フロントで予約メールを提示した。出港15分前の徒歩客ということもあり、「教授(本名)さんですか」と受付の人に尋ねられた。どうやら私が最後の一人だったようで、ご心配をおかけした。
船内は豪華だった。大型フェリーに乗るのは、半年前の新日本海フェリー以来であろうか。あれが初フェリーだったが、それから様々なフェリーに乗船した。
ジャンボフェリーで神戸から高松へと乗船したこともあったが、深夜便のため、明石海峡大橋をくぐるときには爆睡中である。阪九フェリーならば、18時30分頃に通過するため、夕食を食べたあとに海を眺めるいいタイミングで見ることができた。
今回の「一週間西日本紀行」、初日にしてハイライト感を醸し出す、良い船旅だった。