【高校地学】地表の変化1 川や海の地形とその成り立ち

今回の目標

・川や海における地形がどのような条件、時間的スケールでできるかを理解する

・侵食、運搬、堆積の作用と地形との関係を理解する

Ⅰ 受験理科・中学理科の復習

川の三作用

川を流れる水によって、侵食・運搬・堆積が起こります。どの作用が起こるかは、粒径(れき・砂・シルト・泥)と流れの速さによって決まります。

川の三作用

川の働きによる地形

山間部ではV字谷、山から出る部分では扇状地、平地では三日月湖自然堤防後背湿地、河口部では三角州ができます。平地と海の高低差が次第に大きくなる場所では河岸段丘ができることがあります。

Ⅱ 沖積平野と洪積台地

7万年前から1万年前にかけての最終氷期で日本はアジアと地続きになり、現在の瀬戸内海や東京湾も陸地となっていました。しかし、縄文海進と呼ばれる大きな海面上昇により、東京湾だけでなく、荒川下流部や、利根川下流部、大阪では現在の上町台地より西側の陸地、現在の石狩平野、濃尾平野などは全て、海面下に沈みました。

ここで川のはたらきを思い出しましょう。大きな礫は川の近くに、小さな砂やシルト・泥は川から遠くに堆積します。縄文海進の時期に海面下に沈んだ地域には、そこに流れ込む河川が運搬してきた砂や泥など、比較的小さな粒が堆積します。その後、日本列島が全体的に数m隆起した結果、湿地を中心とした大規模な平野が各地に現れました。これを沖積平野といいます。

さらに時代をさかのぼり、13万年前にも氷期があり、その後は7万年前まで間氷期でした。この時期には現在の多摩地域のあたりも海になっており、そこで堆積した砂や泥によって、最終氷期に陸地になったと考えられます。そして、最終氷期の間に多摩川は広い範囲を蛇行して礫を堆積させながら、河岸段丘を形成しました。ここで形成されたのが武蔵野台地です。

260万年前から始まった第四紀は、氷期と間氷期を繰り返す年代でした。そのため、現在は陸地であっても、第三紀までは海だった場所が日本で非常に多く見られます。第四紀が始まってから最終氷期までに沖積平野として陸地化し、現在までに隆起することで形成された台地を、洪積台地といいます。

このことから、沖積平野の部分には三日月湖や氾濫原(自然堤防と後背湿地にあたる部分)が見られることが多く、洪積台地に河岸段丘が見られることが多いことが分かります。また、洪積台地上には三日月湖の名残と思われる地形も見られることから、三日月湖は「寿命が短い」ことも分かります。いずれにせよ、沖積平野や洪積台地は比較的「若い」地形であることがいえます。

Ⅲ 侵食・運搬・堆積の定性的な理解

この項目は、筆者の思考の過程を記したものにすぎないので、「よくわからない」場合は、「ここまでのまとめ」まで飛ばしてください。

侵食には下方侵食側方侵食の2種類があり、勾配の大きい山間部では下方侵食の方が起こりやすいため、V字谷のような地形が、勾配の小さい平野や盆地では側方侵食の方が起こりやすいため、蛇行河川や河岸段丘のような地形が見られます。実際の河川は大雨が降るなどにより流量・流速が急激に増えることがあり、これらを定量的に説明するのは難しいので、ここでは定性的な説明にとどめておきます。

まず、「平衡河川」と呼ばれる侵食も堆積も起こらず、運搬だけが起こる仮想的な河川を考えます。上流部は流れが急で、一定以上の大きさの礫が堆積しているため、侵食が発生しません。下流部に行くにしたがって流れが緩やかになりますが、常に堆積することができる大きさよりも小さい砂や泥が運搬されていきます。下のグラフのような状況です。

平衡河川

縦軸は流れの速さ、横軸は粒径

全ての河川はこのグラフに近づいていることが予想されます。たとえば、山間部の隆起が激しく、平衡河川よりも高い場所を川が流れているとします。

山間部隆起

流れが速い部分(上流)で侵食されている

このとき、平衡河川の状態に近づくためには、下方侵食によって高さを下げることで、流速を抑えることが必要です。

一方で、平野部が沈降したり、海面が上昇する(海進する)と、平衡河川になる位置が上昇するため、元の河川は平衡河川よりも低い場所を流れていることになります。

海面上昇

流れが遅い部分(下流)で堆積している

このとき、平衡河川の状態に近づくために河口付近に砂や泥を堆積させることで、陸地や浅海部分を増やし、海からの波に対して河口付近の流速を上げることが必要です。三角州などはこのような状況で形成されます。

また、平野部が隆起したり、海面が下がる(海退する)と、平衡河川になる位置が下がるため、元の河川は平衡河川よりも高い場所を流れていることになります。しかし、平野と海面の差が比較的小さいため、下方侵食により平衡河川の状態に近づくには限界があります。

海退

流れが比較的遅い下流で侵食が起こっている

そこで、河川は側方侵食により激しく蛇行することによって流れる距離を長くすることで、河口付近の流速を抑えることが必要となります。

山間部が沈降している場合は、平衡河川に近づくためには高さを上げることが必要ですが、流水の性質上それは不可能であるため、その部分には川が流れなくなり、降った雨は地下水を通して海に注いだり、他の場所で湧き水となり、他の河川に合流すると考えられます。つまり、別の平衡河川を求めて新たな流れを作り出します。

山間部が沈降

上流部で流速が十分でないと水は枯れてしまう

また、山間部から平地に出るときに、局所的にこのような状態になっていると考えることができ、礫を中心に堆積することで扇状地が形成されます。

以上の考察から、隆起や海退によって平衡河川よりも高い位置を流れる川では下方侵食が起こり、それだけでは不十分なときに側方侵食が起こることや、沈降や海進によって平衡河川よりも低い位置を流れる川では、河口周辺での堆積が盛んになり、三角州が形成される場合もあることが分かります。

ここまでのまとめ

・河岸段丘は、最終氷期の海退時における側方侵食による地形。

・三角州は、(日本では)縄文海進における堆積による地形。

・沖積平野における河川の蛇行による三日月湖や氾濫原(自然堤防+後背湿地)は、縄文海進以降に形成された側方侵食による地形。

・V字谷は、山間部における下方侵食による地形。

・扇状地は、山間部で侵食をうけた礫の堆積による地形。

Ⅳ 海岸の地形

堆積地形

三角州の多くが縄文海進の時期に形成されたのと同じように、河口付近の流速が十分に遅いために海流や潮流の働きを大きく受ける場所に、砂嘴(さし)や砂州(さす)が形成されました。砂嘴は一か所で陸地と繋がって海に対して突き出すように砂などが堆積したもので、砂州は二か所で陸地と繋がって砂などが堆積することで内湾がふさがれたものです。砂州によって塞がれた部分をラグーン(潟湖)といいます。

また、最終氷期までに作られた洪積台地に砂が堆積したり、砂州に対する砂の堆積が盛んに行われることで大きく成長した砂丘ができることもあります。砂丘上の砂は風による影響を大きく受け、風上側は傾斜がゆるやかに、風下側は傾斜が大きくなります。その結果、バルハンと呼ばれる、爪の白い部分を風上側に向けたような三日月形の凸地形が砂丘上に見られることがあります。また、これらが連結して波の形になることもあります。

侵食地形

大きな河川が近くになく、陸地の隆起量が比較的大きい海岸部には、海からの侵食による地形が形成されます。海進によって洪積台地や山地に対して海が接すると、波による侵食により海食崖とよばれる崖が形成されます。また、その部分の海底は海流のはたらきによって海食台とよばれる平らな地形になります。その結果、隆起によって海食台が陸地になると、再び侵食が始まり海食崖が形成される、というサイクルによって形成された階段状の地形を海岸段丘といいます。

一方で、陸地の隆起量が海面の上昇に対して十分大きくない場合、海食台が陸地になりません。その場合、もともと山地のV字谷であった場所に海が入り込んだままの地形が残り、入り組んだ海岸線になります。これをリアス海岸といいます。

また、先ほどの平衡河川の考え方に基づくと、山は長い時間をかけてなだらかになっていくことが予想されます。なだらかになった山の周辺に海が入り込むと、いくつもの島が点在する地形になります。これを多島海といいます。

Ⅴ 世界の地形

現在世界には、グリーンランドや南極などに氷床が見られますが、最終氷期にはスカンジナビア半島(ノルウェーなど)が氷床で覆われていました。氷床は川に比べて非常にゆっくりではありますが、侵食・運搬・堆積を行うため、氷河とも呼ばれます。氷河の侵食によりU字谷ができます。また、氷河の先端などには氷河が運んだ土砂が堆積することでモレーンと呼ばれる堤防状の地形ができます。

氷床は最終氷期が終わると一気に融け、海面を上昇させるとともに(縄文海進)、氷床があった場所を大きく隆起させます。しかし、氷床による侵食は海面下にも及んだため、隆起しても完全に陸地にならない場所もありました。このU字谷に海が入り込んだような地形をフィヨルドといいます。この地形はノルウェーやニュージーランドを中心に見ることができます。

現在は大きく縮小していますが、最終氷期には日本でも氷河は珍しくありませんでした。北アルプスなどにカール(氷河の「上流部」に見られる半円状のくぼ地)やホルン(カールに周囲を取り囲まれることで切り立った山だけが残った地形)が見られます。

あたたかく浅い海にはサンゴ礁が形成されますが、島の海岸に形成されたサンゴ礁を裾礁(きょしょう)、海面上昇により裾礁内部に海が入り込むことでラグーン(礁湖)を形成してサンゴ礁が取り残された地形を堡礁(ほしょう)、島が水没し、サンゴ礁だけが海面上に出た地形を環礁(かんしょう)といいます。

まとめ

・日本は全体的に隆起する傾向であり、第四紀の氷期と間氷期の繰り返しにより現在人口の多くが居住する低地の多くが形成された。

・縄文海進によって、海岸線が現在よりも内陸部に入り込んでいる場所が日本でも多かった。一方、海面上昇の要因となった氷床が融けた地域はむしろそれ以上に隆起した。しかし、氷河の侵食作用は海面下にも働くため、フィヨルドが現在も見られる。

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