京都駅大解剖〈後編①〉~京都駅ビルの芸術的立ち位置~

 この項では、原広司の「様相論」が、今後日本建築にどのような影響を与えていくのかということを考えていきたいと思う。そのためにまずは、京都駅の日本建築における立ち位置を明確にしたい。
 京都駅は、端的に言えば、「日常のありがたみを気付かせる建築」である。この目的を達成するために、いくつかの対比が用いられているのも特徴的である。以下にわかりやすくまとめてみた。
① 光と影
 次の二つのオブジェを見てほしい。これらの共通点は、昼と夜とで異なる姿を見せるということである。一つ目は、サインの装飾により、サインを目立たせる役割を果たしている。具体的には、昼には影となって、夜には光源が照らすことにより、光となって浮き上がってくるというものである。多くの構造物が直線で構成されている中、サインも同じように直線であれば、目立たない。サイン自体を曲線で構成された形にするという手段もあるが、ここでは装飾を曲線にすることで、直線で構成されたサインも存在感を放っていると言える。

京都駅南西端・通路

② 直線と曲線
 「モダンな建築」と言われる建物の多くには、曲線が使われている。このような表現は、鉄筋コンクリートが可能としている。京都駅は、京都という街の性質から考えても、建築的な視点から見ても「現代的」である。しかし、その象徴でもある「鉄筋コンクリートによる曲線表現」が目立って用いられているということでもない(細かい部分には用いられていることもある)。もちろん鉄骨で曲線を表現することも可能ではあるが、デザインとして使われるのではなく、構造として使われていることが多い。下の写真における、京都駅のエントランスの上にかかるアーチは鉄骨によるものであり、ファサード(京都駅正面外観)のガラス張りを支持する鉄骨トラス構造全体を支えるものとなっている。

 さて、上の画像でも見られるように、京都駅アトリウムの天井は、アーチとトラス構造の組み合わせに見えるが、なぜその構造を隠さなかったのだろうか。例えば、天井全体を内側から、アーチ状になるように曲げられた格子窓のようなもので覆って、トラス構造であることを気付かれないようにするデザインを施すこともあり得たと思う。しかし、天井のデザインの本質は、アーチによる曲線ではなかった。

 天空回廊からは、天井の構造の一端を垣間見ることができる。なるほど、天井は、三角形の集合体であった。トラス構造は、三角形が基本だが、アーチとの組み合わせでは必ずしも完全な直線によって構成されている必要はない。しかし、この建築においては、完全な三角形で構成されていることが分かる。これは「構造をデザインしている」と言っていいかもしれない。いくら時代の流れに応じて建築が曲線的になっていったとしても、それを可能とするのは直線による構造や、直線を基準とした設計なのである。

③ 自然と人工

 大階段においては、斜面と非斜面の対比が見られる。斜面では、三次元的に(高さの方向に)移動するには、水平移動の延長線上にあるかのように移動することが可能であるが、非斜面では、垂直移動が必要である。具体的にはエレベーターや、垂直方向に細長い直方体状に設計された空間である。また、同じ大階段の中でも、階段とエスカレーターによって、自然的な移動方法である水平移動と、人工的な移動方法である垂直移動の対比がなされていることが分かる。ここでは、前者を強調することによって、後者のありがたみを実感させるものとなっている。
 ここまで、京都駅ビルが、芸術作品的にはどのような立ち位置なのかを、今までの内容も踏まえながら確認してきた。次回は、原広司の「様相論」の内容を踏まえつつ、日本建築の今後、建築と芸術の関係について述べていきたいと思う。

京都駅大解剖〈後編②〉~日本らしい建築とは~
 原広司の「様相論」は、「建築に都市を内包する」という言い方でも表される。建築の中の一部分に明確な境界を設けず、曖昧な境界でもってそれらを重ね合わせる。そのことで、建築全体で見ると時間的な変化が表れてくる、という考え方である。曖昧な境界...
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