京都駅大解剖〈中編②〉 原広司は「正方形」でコンペに選ばれた?

京都駅大解剖

原広司の格子デザイン、京都駅にも

 京都駅を歩いていると、それぞれの空間が多様な表情を持ち、この先も歩いてみたいと思えるような工夫がされている、ということを、前回、前々回と強調してきた。今回は、それらの空間を構成する「かたち」に注目して、京都駅ビルに使われているデザインの共通点を探していきたい。
京都駅アトリウム(前回参照)から正面口へと出ると、バスターミナルがあり、その向こうには京都タワーが見える。今回注目するのは、バスターミナルの手前にある、駅に隣接するように作られた地下街への入り口である。この画像の右側に煙突のような排気口が写っているが、この形を覚えておいてほしい。

 次の画像は、京都駅のエントランス部分である。これらの正方形によるデザインは、原広司が京都の条坊制の町割りをイメージして、様々な場所に取り入れられている。

 左端には、先ほどの通気口がある。そして、今度は左上に、構造的な柱を兼ねた通気口が見える。この部分に使われている正方形の大きさは、先ほどの排気口のものよりも大きいことは明らかであろう。そして、手前にはデザイン自体に正方形が使われている。今まで出てきた正方形の中では、最も小さい。

 同じようなデザインが、大階段にも使われている。さらに、空中広場のレベルの、一番高いところにも、正方形のデザインの排気口が見られる。

 実は、これらの格子のモチーフは、原広司の作品(主に公共建築)に多く顔を出す。その意図は、建物の外部と内部という、平面的になりがちな境界に対して規則的な形の穴を開けることで、デザイン性を高めるためである。さらに言うと、外部と内部の境界とはすなわち、通気口である。そして、格子のモチーフは、飯田市美術博物館において、室内にも使われていることに注目したい。先ほど、建物の外部と内部の境界という言葉を使ったが、原広司にとっては、人が日常的に立ち入る場所全てが「建物の外部」なのである。これは、建築に都市を内包するという考え方に基づいている。

京都駅に正方形が多いという必然

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 京都駅大解剖〈前編〉で紹介したように、原広司は、伊勢丹やその他文化的施設を、東西および上層階や地下に追いやった。その結果生まれたのが、アトリウムや大階段といった巨大な「広場」であった。しかし、こうした建築には、換気口が露出しやすいというデメリットもある。本来ならば、植栽やデザインによってそれらを一つひとつ隠していくのだが、原広司は、自身のストックであった格子のデザインでその多くを解決した。ほかにも円形や長方形の通気口もあるが、前者は格子のデザインに溶け込むように配置されており、後者は目立たないように立体的にデザインされていた。

 結局、たとえ建築内部であろうと、人が通る場所は全て「都市」として扱うという配慮のあらわれが格子のデザインなのだと思う。こうした配慮は、京都駅ビルという商業施設も公共施設も合わさった複合施設の設計においてこそ力を発揮したのである。

京都駅大解剖〈後編①〉~京都駅ビルの芸術的立ち位置~
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