はじめに
鉱床とは、地球表層付近に生成される有用元素の集合する地質体であり、一般的には経済的に採掘可能であるものを指します。鉱床は物質的には、金属、非金属、化石燃料に使われる有機物質の3種類に分けられるとともに、生成過程からは、火成鉱床、変成鉱床、堆積鉱床に分けられ、その成因は様々であるので、生成される場所と成り立ちを合わせて理解する必要があります。
火成鉱床
火成鉱床はマグマ性鉱床とも呼ばれ、そのうちマグマの分化によって直接生成されるものを正マグマ性鉱床といい、成分がマグマの熱によって温められた地下水や海水、雨水に移動して生成されるものを熱水性鉱床といいます。
正マグマ性鉱床
正マグマ性鉱床は、マグマの温度が下がることに伴う結晶分化作用により生成されます。一般的に、結晶分化の初期では苦鉄質鉱物がカンラン石、輝石、角閃石、黒雲母の順に、珪長質鉱物がCaに富む斜長石からNaに富む斜長石の順に晶出し、結晶分化の末期には石英やカリ長石を晶出します。
このうち、初期に晶出する鉱物はマグマに比べて重いためマグマだまりの下部に集積することで、結晶分化型鉱床を作ります。その例として南アフリカのブッシュフェルト貫入岩体があり、クロム鉄鉱や磁鉄鉱が層状に鉱床を形成しています。
また、結晶分化の末期にはマグマが水や塩素、フッ素などの揮発性成分を含むことで鉱物が成長しやすく、石英、長石、雲母を主成分としたペグマタイトを形成します。このペグマタイトには希土類元素(レアアース)や錫(スズ)、ウラン、リチウムなど、不適合元素と呼ばれるマグマに取り込まれにくい元素が濃集します。
白亜紀のようにスーパープルームの活動が活発な時期には、結晶分化の初期に形成された超苦鉄質鉱物が爆発的に噴火することでパイプ状に地表付近に産出することがあり、キンバーライトと呼ばれます。これが生成されるような高圧条件下では炭素がグラファイト(石墨)ではなくダイヤモンドで安定となるため、ダイヤモンド鉱床の母岩となっています。
また、珪酸塩に乏しくアルカリ(Na2OやK2O)に富むマグマの固結末期には、カーボナタイトと呼ばれる、方解石やドロマイトなどの炭酸塩鉱物を中心として、希土類元素やジルコニウムが濃集する鉱床が形成され、キンバーライトに関連して産することがあります。
マグマの冷却過程で、珪酸塩溶融体から硫化物溶融体が不混和により分離し、後者にはニッケル、金、銅、白金など(ニッケルよりも低いイオン化傾向)が濃集するマグマ不混和型鉱床を生成することもあります。ブッシュフェルト貫入岩体における、メレンスキーリーフと呼ばれる層は、世界最大級の白金族元素の供給源となっています。
熱水性鉱床
マグマから分離したマグマ水は、374℃、22.1MPaの高温高圧下では液体と気体の区別がない超臨界水として存在することもあり、マグマだまりから離れるごとに濃集する元素が異なり、温度が高い順に深熱水性鉱床、中熱水性鉱床、浅熱水性鉱床を生成します。
深熱水性鉱床ではリチウムやフッ素を含むことが多く、特に花崗岩体頂部では、石英や白雲母を主とし、蛍石、トパーズ、電気石(トルマリン)を伴う鉱床を生成することがあり、グライゼン鉱床と呼ばれます。
熱水中では銅、亜鉛、鉛などがクロロ錯体として、金がチオ錯体として溶けており、温度の低下とともに硫化物として、中熱水性鉱床や浅熱水性鉱床を生成します。
このような浅熱水性鉱床の例として、斑岩鉱床と呼ばれる、閃緑岩や花崗岩の貫入岩体に伴ってモリブデン、銅、錫、金などが広範囲に分布する低品位(含有率が低い)鉱床が挙げられます。このような鉱床が形成される貫入岩体にはマグマ水による変質帯が同心円状に分布しており、カリ長石、黒雲母を中心に石英や黄鉄鉱、カオリナイトやモンモリロナイトなど粘土鉱物、緑簾石や方解石が取り囲む構造になっています。
接触交代鉱床(スカルン鉱床)
深成岩(特に酸性から中性、花崗岩)の貫入により、熱水が周辺の石灰岩などと反応すると、カルシウムに富むスカルン鉱物(ザクロ石、単斜輝石、緑簾石、珪灰石など)が累帯配列をなし、それらの間に金属が沈殿します。貫入した花崗岩のうち、帯磁率が高い磁鉄鉱系花崗岩類の周辺にはモリブデン、銅、鉛、亜鉛、金、銀が濃集し、帯磁率が低いイルメナイト系花崗岩類(チタン鉄鉱系花崗岩類)の周辺には錫、ベリリウム、タングステンが濃集します。
海底噴気堆積鉱床(火山性塊状硫化物鉱床)
海底噴気堆積鉱床は、海底火山に伴って生成された鉱床であり、現在の海底熱水鉱床にあたるものです。SiO2に富む酸性の火山活動に伴い黒鉱型鉱床が、アルカリに富む塩基性の火山活動に伴い別子型鉱床が生成されました。前者は、東北日本の背弧海盆として、グリーンタフ地帯に生成された黒鉱鉱床が名前の由来であり、後者は、三波川変成帯中にある別子(べっし)銅山に由来しています。
黒鉱型鉱床の深部や、別子型鉱床においては、間隙水中の鉄Ⅲイオンは、酸化鉄還元微生物によって鉄Ⅱイオンに還元されるとともに、硫酸還元微生物によって還元された硫黄と反応することで黄鉄鉱(FeS2)や黄銅鉱(CuFeS2)を形成します。黒鉱型鉱床の浅部では酸化的な環境のために黄鉄鉱や黄銅鉱は生成されにくい一方、間隙水中の硫化物を形成しやすい金属イオンと硫黄が反応することで、閃亜鉛鉱(ZnS)や方鉛鉱(PbS)、重晶石(BaSO4)、磁硫鉄鉱、硫化銅(CuS)が形成され、鉄の酸化物も含まれることから、黒色を呈する鉱床を生成します。
黒鉱型鉱床は、深部から順に、石膏(CaSO4)からなる石膏鉱、石英や黄鉄鉱・黄銅鉱からなる珪鉱、黄鉄鉱・黄銅鉱を中心とした黄鉱、閃亜鉛鉱や方鉛鉱からなる黒鉱の順に遷移します。一方、別子型鉱床は、黄鉄鉱・磁硫鉄鉱・黄銅鉱を中心に形成され、層状含銅硫化鉄鉱鉱床とも呼ばれます。後者のような鉱床はオフィオライト(陸上に上がってきた海洋地殻の断片)に伴って存在することもあり、キプロス型鉱床と呼ばれます。
現在の海嶺付近では別子型鉱床に近いタイプの鉱床が生成されていると考えられ、煙突状のチムニーから、閃亜鉛鉱や磁硫鉄鉱を含むブラックスモーカーや、重晶石やシリカ(SiO2)を含むホワイトスモーカーとともに、300℃以上の高温の熱水を噴出しています。
ほかに、硫黄分圧の低い、酸化的な熱水によって磁鉄鉱や赤鉄鉱を中心に硫化銅や金を含む酸化鉄・銅・金型鉱床(IOCG型鉱床)や、NaCl濃度の高い、高塩濃度熱水が石灰岩やドロマイト(CaCO3)を交代することで鉛や亜鉛、蛍石を伴う、ミシシッピバレー型鉛・亜鉛鉱床なども熱水性鉱床の働きにより生成されたと考えられます。
粘土鉱物の生成
岩石に熱水が作用することで、元の岩石とは異なる組成に変化することを熱水変質作用または、熱水交代作用といいます。
花崗岩のような珪長質岩石は、酸性の熱水と反応することでカオリナイトやハロイサイトからなるカオリン鉱床を生成します。カオリナイトは、陶磁器や塗料、化粧品に使われます。
ガラス質凝灰岩やガラス質流紋岩が中性の熱水と反応することでベントナイト鉱床と呼ばれる、モンモリロナイト(スメクタイト)を主成分とする鉱床を生成します。ベントナイトは、掘削用泥水や粘結材に使われます。
また、ガラス質凝灰岩が塩基性の熱水と反応することで沸石鉱床を生成します。沸石は吸着剤やイオン交換材、触媒に使われます。
堆積鉱床
機械的堆積鉱床
岩石の風化により溶脱した鉱物の一部が河川水に運搬されたのち、堆積することで濃集してできた鉱床を、機械的堆積鉱床といいます。砂状の鉱物粒子が集積する形態をとることもあり、その場合は漂砂鉱床と呼ばれます。このような鉱床を形成する金属は、比重が高いとともに、酸化環境で安定かつ、二酸化炭素や水によって溶脱しにくいことが必要で、その大部分は新第三紀から第四紀にかけて生成されました。錫や鉄、金、白金による各種鉱物のほかに、ジルコン、イルメナイト(チタン鉄鉱)、コランダム(Al2O3)による鉱床が存在します。
また、30億~27億年前に生成された古い時代の鉱床に、礫岩型ウラン-金鉱床が存在し、当時の大気中が酸素に乏しかったため、ウランの酸化数が+4で安定であったことを反映しています。
化学的堆積鉱床
砂岩、泥岩や頁岩などの堆積岩中は硫酸還元微生物の働きにより金属イオンの硫化物を生成しやすい環境になっています。カッパーベルト型鉱床は砂岩・頁岩型銅鉱床に分類され、9-8億年前の海岸線に沿って輝銅鉱や黄銅鉱、黄鉄鉱を産出します。また、堆積岩の続成により100℃以上に熱せられた高塩濃度の熱水に鉛や亜鉛が溶解することで、泥岩や頁岩中にSEDEX型鉛・亜鉛鉱床を形成します。
海嶺から離れた場所に鉄やマンガンの水酸化物や酸化物が形成されると、塊状のマンガンノジュールやマンガンクラストを生成し、それらにはコバルトや白金が濃集することが多く、コバルトリッチマンガンクラストと呼ばれます。また、太平洋の深海底などには希土類元素に富んだ堆積物も近年に見つかっており、レアアース泥と呼ばれます。
また、海面の上昇に伴って浅部に二価のマンガンを酸化する環境が現れることで、マンガンが三価や四価になって沈殿することで、大規模な層状マンガン鉱床が生成されたと考えられます。
縞状鉄鉱層
縞状鉄鉱層は、層状鉄鉱床の一種で、アルゴマ型とスペリオル型に分かれます。アルゴマ型は、35億-29億年前にコマチアイト(カンラン岩質の火山岩)が海底火山として噴出していたグリーンストーン帯に産する、金を伴う規模の小さな鉱床です。一方、スペリオル型は、25-19億年前に大規模に生成され、それまで海水中に存在した二価鉄が、シアノバクテリアの光合成によってできた酸素によって酸化されることで沈殿して生成されました。
これらの鉱床は、海底の表層付近における鉄酸化細菌の働きも受けていると考えられます。
その他の鉱床
風化鉱床
岩石の風化に伴い、溶脱されなかった元素が濃集することによってできた鉱床を風化残留鉱床、溶脱した元素が異なる場所で濃集することでできた鉱床を風化浸透鉱床といいます。前者の例にはボーキサイト(Al2O3)や、花崗岩の風化によるカオリナイトやスメクタイトなどの粘土鉱物が挙げられ、このような粘土鉱物には希土類元素が吸着することで、イオン吸着型希土類鉱床を生成します。
後者の例にウラン鉱床が挙げられ、現在の酸化的な地表面の環境では6価が安定なウランが岩石から溶脱し、地中に浸透することで、植物化石などに含まれる炭素によって還元されて4価となって沈殿することによって形成されます。
蒸発鉱床
海水の蒸発に伴い、方解石(CaCO3)、石膏(CaSO4)、岩塩(NaCl)、カリ岩塩の順に析出し、層状に鉱床を作ります。また、アンデス山脈周辺のウユニ塩湖やアタカマ塩湖にはリチウムを含む鉱床が存在し、リチウムイオン電池の普及により注目されています。
有機的堆積鉱床
地下には浅部から順に、好気的細菌による酸化帯、硫酸還元微生物による硫酸還元帯、メタン生成微生物によるメタン生成帯、温度上昇に伴う熱分解による熱分解脱カルボン基帯、という遷移が見られます。
メタン生成帯では、生成されたメタンが水と反応することでメタンハイドレートを形成するとともに、海溝付近では断層に沿って海底表層付近まで移動してくることから、日本近海にも多く存在する資源として期待されており、採掘可能になると天然ガスの10倍程度の埋蔵量が確保されることになります。
熱分解脱カルボン基帯では、100℃前後の低温では炭素数の多い炭化水素を含む石油、それ以上の高温では、エタンやプロパンのように炭素数の少ない炭化水素が生成し、後者は天然ガスと呼ばれます。世界の石油の60%は白亜紀における南太平洋スーパープルームの活動によるシアノバクテリアの繁殖および、低酸素状態になった海底への堆積によって生成されました。
また、高粘度の油が頁岩や砂岩中に含まれることがあり、それぞれオイルシェール、オイルサンドと呼ばれます。近年、頁岩中のシェールガスの採掘が経済的に可能となったため、従来の天然ガスの2倍程度の埋蔵量が確保されました。
変成鉱床
変成による高温高圧下では、金属の濃集・移動が起こらないため、一般的には金属鉱床は生成されない一方で、再結晶による非金属結晶が形成されます。
石灰岩が再結晶を起こすと大理石、石炭に富む堆積岩の変質による石墨鉱床、アルミニウムに富む岩石の変成による藍晶石・紅柱石・珪線石、コランダム鉱床がそれぞれ生成します。
資源としての鉱床
ここまで、様々な鉱床を一気に見てきたので、例題を6問解説していきながら、体系的に復習したいと思います。
資源の安定供給
以上の例題を通して、鉄や金のような自然界にありふれた元素は日本のように比較的最近に形成された島国であっても、黒鉱型鉱床や漂砂鉱床などから手に入れることができますが、大規模な漂砂鉱床はアフリカやオーストラリアなど、長い間(少なくとも数億年のスケールで)安定してきた場所にしか見られないため、希土類元素などを経済的に採掘するためには、限られた国に存在する資源に頼らざるを得ない状態となっています。
希土類元素をはじめ、白金族元素やリチウムなどは、埋蔵量や供給量において上位3か国が90%以上を占めるといった状況であるとともに、それらの国には発展途上国も含まれることから、安定的供給が課題となります。また、経済的な採掘が可能な企業も限られているため、鉱物・エネルギー関連では国際資源メジャーによる寡占状態となっています。
また、資源の枯渇も重要な課題です。資源の全埋蔵量を、1年あたりの消費量で割った値である静態的耐用年数は、石油で40年程度と言われていますが、採掘技術の発展や、新しい鉱床の発見がそれ以上のペースで進むことが多く、静態的耐用年数は必ずしも枯渇時期を表すものではありません。
一方、地殻存在度に対する埋蔵量・採掘量の割合が最も高いと考えられる金が金属資源の枯渇の目安として使われ、銀、鉛、亜鉛、銅、錫などは金に近い水準であることから、枯渇の危険性が高い金属であるとされます。これらの金属の中には再利用がしやすいものもあることから、再利用を積極的に行うことが求められます。
まとめ
・マグマ固結初期には結晶分化型鉱床やマグマ不混和型鉱床が底部に生成する。
・マグマ固結末期にはペグマタイトやカーボナタイトが生成する。後者は、超苦鉄質マグマの爆発的噴火により、キンバーライト中に取り込まれる場合がある。
・マグマだまりの周辺には、マグマの成分を取り込んだ熱水による鉱床が見られる。高温のものはグライゼン鉱床、比較低温のものは斑岩(銅)鉱床として形成される。
・熱水が石灰岩に接触することで、接触交代作用による金属の沈殿が起こる。熱水が磁鉄鉱系花崗岩類由来であるか、イルメナイト系花崗岩類由来であるかによって異なる金属がスカルン鉱物の層間に濃集するスカルン鉱床が生成する。
・ミシシッピバレー型鉛・亜鉛鉱床も同様に接触交代作用によるものであるが、熱水は海嶺や海底火山における、アルカリ質マグマに由来する。
・海嶺や海底火山付近には酸性の場合は黒鉱型鉱床、塩基性の場合は別子型鉱床が生成する。硫黄成分に乏しい場合は、酸化鉄・銅・金型鉱床が生成する。
・堆積型鉱床は、25億年前のシアノバクテリアによる酸素供給前後で異なる環境で生成された。酸素が少ない環境ではウラン鉱床が地表付近に形成される。また、酸素供給後には、海水に溶け込んでいた二価鉄が急激に酸化されることで、スペリオル型縞状鉄鉱層を形成した。また、浅部ではマンガンの酸化による層状マンガン鉱床を形成した。