プロローグ 日本完乗紀

人はなぜ旅をするのだろう。私たちの旅は、138億年前に始まった。時間が生まれ、エネルギーとともに空間が広がっていき、それらの相互作用により物質が作られ、やがて生命へと発展していった。絶滅と進化を繰り返す中で効率を追求した結果、生物は時間を手に入れた。

余った時間を使ってある者は競争し、ある者は旅に出た。競争に勝てばより多くの時間を手に入れることができるが、負ければ時間を失う。それならば、今ある時間を誰かに分け与える方がいい。そのために人は旅をするのだと思う。

中学生の私は、競争の真っ只中にいた。しかし、次第に負けが続くようになったことで使える時間は減っていき、自分の時間を身近な人に分け与える余裕もなくなった。そんな私に残された最後の手段が、見知らぬ誰かと出会うための旅だった。

最初は寄り道程度だったが、学年が進むにつれて自ら時間を作って旅をするようになった。高校生になると鉄道を乗り継いで北海道まで行くようになった。大学受験を経た後も、日本の鉄道に全て乗るという夢に向けて各地を飛び回っていたが、その旅は突如として中断された。

それは生きる意味を失うも同然だったが、今ではそれを乗り越えてJR線の完全乗車を達成した。それ以降も、世界一周という新たな夢を掲げて旅を続けている。

いかにして旅が生きる意味となり、それを取り戻したか。その記録を日本完乗紀に記す。

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